日本火山の会火山学最前線レポート 特別解説 No.1 新種の火山を発見 〜プチスポット火山〜


潜航調査と火山の様子

解説執筆:平野直人
作成協力:赤司卓也・竹内晋吾

 1997年、海洋研究開発機構(当時:海洋科学技術セン ター)の無人潜水艇「かいこう」が、日本海溝で潜航調査を行い、枕状溶岩の露頭を発見しました。このとき採取された玄武岩の年代測定を行ったところ、およ そ6百万年前に噴出した溶岩であることが分かりました(Hirano et al., 2001)。

 この場所の周囲の地質は、1億3千万年前に形成された太 平洋プレートと、それ以降のおよそ1億年前に形成された海山のみであったことを考えると、6百万年前の玄武岩は非常に異質なものでした。

 2003年には、この玄武岩露頭の周辺の日本海溝でド レッジ調査を行いました。ドレッジとは、調査船から鉄のバケツを海底におろしてひきずり、海底の岩石を採取するというものです。このドレッジ調査では大量 の玄武岩が得られました(図1)。


図1.2003年の航海のドレッジ調査で得 られた玄武岩試料。その中には、はち切れんばかりの溶岩試料が入っていました。

 三陸沖の太平洋プレートは、1年におよそ10cmの速度 で西北西に移動し、日本海溝へ沈み込んでいます。私たちは、この溶岩試料の6百万年という年代値を元に、この移動速度から、6百万年前の火山の位置を想定 し、その場所で音波探査も行いました。

 音波探査では、船底から複数の音波を海底に向けて発射し、その反射時間から海底の深さ(地形)を測定し、反射強度から海底の底質(地質)を調べることが出来ます。 音波の反射強度が強ければ、そこは固い海底(溶岩 など)、弱ければそこは柔らかい海底(深海泥など)の存在が予想出来るわけです。

 この音波探査の結果から、火山(溶岩)が海底に出ている と予想される場所を見つけました。そして、2004年のJAMSTEC調査船「かいれい」のドレッジ調査によって、その場所から火山が発見されました。火 山の場所は北緯37.5度:東経150度周辺でした。火山は大きく見積もっても長径1km程で、調査船の音波探査でしか確認することの出来ない程の小さな ものです。

 音波探査で火山の存在が予測できるといっても、実際に溶 岩試料を手に取るまで、確認作業は簡単なものではありませんでした。ドレッジで回収された試料の中に、溶岩が無かったとしても、ドレッジがたまたま玄武岩 を引っかけなかっただけで、その山が火山では無いとは言えません。逆に音波データの地図で堅い地質を示しているように見えても、そこには何もない場合もあ ります。

 2004年のドレッジ調査はなかなか思うように進まず、 まさに暗中模索でした。この航海ではドレッジを7回行いました。その間には、6月の梅雨前線上を発達した低気圧が通過し、嵐のようなシケが訪れ、蓬か南方 沖に船を避難させたり、この年初の目本上陸台風(Dianmu台風)が来た時には遥か東方沖の調査海域、東経150度でも影響が出て慌てて避難した事もあ りました。


このように海況が悪いときに、大きなうねりに対して船が垂直に走ると、前後に揺れ、激しい飛沫をを作ります。



また、いるかの大群が船の周りに遊びに来て、癒されたこともありました(2005年8月)。


 その様な成果の出ないドレッジが続き、「やはりこのよう な場所に火山なんてあるわけがない…」と乗船研究者の皆が思い始め、巨額の研究費を使った調査航海に、火山をなんとか探し出さないと、という我々の焦りが 最高潮に違していた第7回目の最後のドレッジで、我々は念願の溶岩試料を得ることが出来たのです。

 この最後の最後でようやく得られた溶岩試料は、我々が枕 状溶岩として見る事の出来る様にマグマが海水と触れる事によって生じる急冷ガラスで覆われていました。表面には溶岩が流れた痕跡である縄状構造もありまし た。また玄武岩の切断面は、かんらん石の結晶で散りばめられていました。まさに求めていた以上に良質な試料でした。しかも著しくガスで発泡した溶岩でした (図2)。この航海7 回目のドレッジ、まさにラッキー7ドレッジです。


図2.2004年の調査で初めて得られた溶 岩試料の断 面。左下の黒四角は1cmです。

 噴出時に溶岩の周囲にあった深海泥が、溶岩の熱により焼 かれて、溶岩の表面に付着していることもわかりました。また、溶岩のガラス部の変質部分(パラゴナイト)の厚さと、一般的な変質速度から5〜103万年前 に噴火した溶岩であることもわかりました。

 この場所は水深6000mもあり、大きな水圧がかかる深 海底です。水圧の高さが原因でマグマにガス成分が押し込められ気泡として外に抜け出せないために、これまでこのような深海底で見つかっていた溶岩はあまり 発泡をしていないのが普通でした。しかし今回見つかった溶岩は著しく発泡しています。これは、大きな水圧下でもマグマに押し込めきれないくらいの異常に多 いガス成分をマグマが含んでいたことを示しています。

 2005年には、JAMSTECの有人潜水調査船「しん かい6500」を使って、この火山へ赴きました。火山の周辺には驚くべき光景が広がっていました。火山の山頂の周り数百メートルの範囲に、火山弾が散リば められていたのです。著しく発泡した溶岩の断面から推定された異常に多いガス成分を裏付けるように、マグマを吹き散らすような激しい爆発的な噴火活動があった ことが判明しました。図3はこの潜航の折に観察された枕状溶岩と、散乱する火山弾の写真です。



図3.上の写真:火山体の山麓に散乱していた火山弾(Hirano et al., 2006)。下の写真:枕状溶岩の表面(写真の上下方向に溶岩が流れています)と、岩石を採取する「しんかい6500」のマニピュレータ(遠隔 操作式機械腕)。

 こうして、プチスポット火山の詳細が明らかになり、皆さ んにご報告できたのが2006年7月28日です。この火山の発見を機に、火山とプレートテクトニクスの関連や、マントル(アセノスフェア)の状態、火山ガ スとしてのマントルからのガスの放出、世界の地質における原因不明の玄武岩貫入岩体の成因などなど、今後、様々な地殻変動が解明されていくかもしれませ ん。

 
しんかい6500が船からおろされ海底に出発する場面(左の写真)
しんかいが船から吊り下げられているところ(右の写真)


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