出典: 日本火山の会:火山ライブラリー

死都日本


石黒 耀(著)


講談社
2002年
2300円

小説・映画



 大分話題の中心時期から遠ざかりましたが死都日本読み終えました。いろんなところ で感想を述べられている方々と同じくお腹(頭)いっぱいになる内容でした。怖いほ どリアルな火山的描写のみならず、現代の社会のあり方、科学の限界に対する投げか けを問うている内容には迫力を感じます。

 また、伝説と火山噴火の密接な関係を所々に描きこむことによって、人類(日本人) と大規模噴火の密接な接点を表現する描写には感銘を受けました。世界の事例も織り 交ぜ文明の破壊が起きていたという現実もリアルですね。知恵熱が出るほどではない のですが、火山との付き合い方はどうしたら良いかと深く考えさせられています。 話は変わりますが、神話と火山のロマンをぼちぼち真面目に語る会などあったら面白 いですね。ほたほた、小山殿がお詳しいかなぁ。

(2002年 12/9 田島靖久)

 大変な本です.

 私は,現実世界はもちろんフィクションの世界においても,自分が生きているうちに (真の意味の)巨大噴火を体験できると思っていませんでした.しかし,その機会が こんなに早く訪れるとは,全く不意を打たれた気持ちです.

 九州の霧島火山の北西側に「加久藤カルデラ」という古いカルデラがあります.これ が巨大火砕流噴火を起こして南九州が壊滅し(こちらが話のメイン),さらにはカル デラ形成によって生じた地殻の伸張ひずみが南海トラフのプレート境界地震を誘発さ せ,日本全体が大混乱に陥るという近未来小説です.

 こう言うと,ハリウッドの娯楽映画のような低レベルのものを想像する人が多いと思 います.私も冒頭を読んでいるうちはそう感じていました.ところが,噴火開始以後 の現象記述は詳細をきわめ,最新の火山学的知識がちりばめられたリアリティーあふ れるものになっています.火砕流にともなうブラスト,サージ,二次爆発,ラハール, 灰神楽など,ありとあらゆる現象のバーチャル体験ができ,完全に主人公と同化して 本の世界にトリップしてしまいました.

 もちろん専門家の目から見て,「おいおい」という部分はあちこちにあります.とく に,最初の水蒸気爆発からカルデラ噴火まで数時間で進んでしまうこと,噴火も数時 間以内で終了してしまうこと(それでいて288立方kmのマグマが噴出したとされて います),翌日の豪雨でカルデラ湖が形成されることなど,展開がいくらなんでも早 すぎます.

 しかし,全体として大きな間違いはしていません.巨大火砕流噴火を完膚無きまでに 実体験できる作品と言ってよいでしょう.少し手を加えれば,非常に魅力ある火山教 育題材にできるほどの完成度です.

 しかも,たんなるパニック小説に終わっておらず,長期的視野に立てば巨大火砕流災 害とそれにともなうラハール災害もやがては国土に豊かな恵みをもららすこと,その ような視点が巨大災害に立ち向かうための逆転の発想として必要なこと,低頻度大規 模自然災害のことを意識した国土利用計画への発想転換などが説かれています.

 最低限,火山学者や火山に興味がある人には非常に強くお勧めするとともに,それ以 外の人にもぜひ一読をお勧めしたいです.

(2002年 11/26 小山真人)


参考WEBサイト:

  • 日本火山の会制作の画像でたどる死都日本
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